コホート・生体試料支援プラットフォームの全貌と6年間の実績

コホート・生体試料支援プラットフォーム (16H06277) ― 日本のヒト生体バイオリソース基盤の構築と成果

近年、生物医学研究はマウスなど動物モデルからヒト由来サンプルを使った研究へと大きく転換しています。そんな中、東京大学を中心に国内の複数機関が連携して進めた「コホート・生体試料支援プラットフォーム(CoBiA)」、研究課題番号 16H06277 の活動と成果を振り返ります。

CoBiAとは何か

CoBiA(コホート・生体試料支援プラットフォーム)は、2016〜2021年度にかけて科研費・革新的領域研究「高度技術・資源基盤プラットフォーム形成」種目として採択されたプロジェクトです。

主な目的は、ヒトの健常人コホート、患者由来臨床試料、剖検脳組織などを体系的に収集・保管・提供するバイオリソース基盤を国内に構築し、研究者が分子・細胞レベルで得た知見をヒトで検証できる環境を整えることでした。すなわち「試料 × 大規模データ × 共有基盤」による生命科学研究の加速が狙いです。

プラットフォームの構成

  • 約135,000人の健常人コホートの生活習慣・健康データと血清・DNA等のサンプル
  • 剖検による脳組織(ブレインバンク):約300件
  • 臨床検体(がん患者など):約114,000件
  • 最先端のオミックス解析、ゲノム解析に対応する研究支援体制

これらの多様なリソースを統合し研究者に提供することで、日本における「人由来試料 × 疾患・健康データ × 解析技術」の研究基盤を大きく強化しました。

どんな研究が支援されたか ― 実績の概要

CoBiA の支援によって、6年間で以下のような成果が生まれました。

  • 支援研究件数:4,997 件
  • 学術論文:882 本以上
  • 米国・カナダ・韓国・欧州など多国間共同研究の推進
  • 若手育成・異分野交流のためのワークショップやシンポジウム開催

がん(肺がん・膵がんなど)、痛風、遺伝性疾患、認知症・神経変性疾患など幅広い領域で、遺伝的要因・生活習慣・環境要因と疾患リスクの関連を探る研究が進展しました。また、一般市民向け講座や倫理・法・社会的課題(ELSI)に関する啓発活動も行われ、ヒトバイオリソース研究への理解促進にも寄与しました。

CoBiAが果たした意義と今後への展望

学術的・社会的意義

従来、ヒトでの検証研究は医療機関が個別に保有する限られた試料へ依存していました。CoBiA によって全国規模で多様な背景を含む試料が体系的に収集・管理され、研究者が公平にアクセスできる環境が整備されました。これにより以下の発展が期待されます。

  • 疾患発症メカニズム解明やバイオマーカー探索の効率化
  • 遺伝 × 環境 × 生活習慣を統合した疫学研究の高度化
  • 日本人特有の背景を反映した医療研究の推進

人材育成と研究カルチャーの刷新

若手研究者の発表会やワークショップの開催により、異分野交流を促進。また、ELSI 公開講座によってヒト試料研究に伴う責任や社会的意義への理解を深め、今後の生命科学研究の基盤形成にもつながりました。

なぜ今、重要か ― 人由来研究の潮流

動物モデルや細胞実験では説明しきれない「人固有の生理・病態」を理解する必要性が高まっています。さらに、ゲノム解析・オミックス解析技術の進展により、ヒト試料を用いた大規模データ解析の価値が飛躍的に向上しています。こうした背景のなか、CoBiA のような基盤は研究の質・スピード、そして倫理性を両立するために不可欠です。

まとめ

「コホート・生体試料支援プラットフォーム(16H06277)」は、日本の生命科学・医療研究の未来を支える国の資産とも言えるバイオリソース基盤を構築した重要なプロジェクトでした。13万件を超える健常人コホート、臨床検体、脳組織など多様なヒト試料と研究支援機能により、多くの学術成果と人材育成を実現しました。

今後、この基盤を活用した研究がさらに進むことで、がん、神経疾患、生活習慣病などの理解が深まり、個別化医療の発展にも寄与することが期待されます。

コホート・生体試料支援プラットフォーム (KAKENHI-PROJECT-16H06277) 公式情報